株主総会の議案に退職慰労金の賛否が求められる場合があります。ただ、退職慰労金について不透明な部分も多いのも事実です。今回は投資家の立場として知っておきたい退職慰労金の基本的な知識を解説します。
退職慰労金は取締役や監査役に会社への貢献への感謝の意味を込めた退職金
退職慰労金とは、取締役や監査役に対して、在任中の会社への貢献への感謝の意味を込めた退職金になります。
現在では、数は減っていますが、上場企業の中に、株主総会の議案の中に「退職慰労金」への会社提案を目にすることがあります。
後述していますが、退職慰労金は、通常の従業員向けの退職金とは異なり、役員で自由に金額を変更することができるため、予め会社の定款に定めた上、その金額と支払時期、支払い方法を規定しておく必要があります。
退職慰労金を支払う場合は定款に規定もしくは株主総会で決議が必要
退職慰労金を支払う場合は、予め会社の定款に定めておくか、支払う前に株主総会で決議を行う必要があります。
退職慰労金は、金額の制限などがなく、自由に金額を決めることができるため、単なるお手盛りや税金対策といったことが考えられることから、予め明文化しておくことが重要です。
支払額を考慮すべき点としては、月額の報酬や勤務年数、功績倍率などを考慮して決定する必要があります。
ただし、上場企業において退職慰労金を株主総会で決議する場合、具体的な金額といったことは開示されない場合も多く、実際に金額などは不透明なことも多いのも事実です。
投資家の立場としては退職慰労金に利点はない
株式投資家として、上場企業が退職慰労金の提案を株主総会で行った場合、投資家にとってそれが良い影響を与えることもなく、むしろ、株主の利益が減少することになり、株主価値を向上につながりません。
また、前述したとおり、退職慰労金の金額の決め方は不透明なことも多く、個別の金額を開示しているといった特段の理由が無い限り、株主にとって利点がないため、原則として会社提案には反対することが推奨されます。
近年では、役員報酬が高額であることが批判された、日産のカルロス・ゴーン元会長問題も浮き彫りとなる中、多くの機関投資家においても、反対を投じる割合は高くなっており、2019年10月18日の日本経済新聞の記事には退職慰労金の議案に対して約6割の機関投資家が反対を投じているとしています。
個人投資家でも退職慰労金の提案には慎重な判断が必要
退職慰労金を支給する上場企業は年々少なくなっており、議案への記載も見られなくなりました。ただし、依然として退職慰労金を支給している上場企業も存在しており、多くの場合、その決め方が不透明な状況となっています。そのため、同様の議案があった場合は、詳しい説明を求め、応じない場合は反対を投じる必要があります。
個人投資家が議決権行使を行う場合、多くの場合において賛成で投票する場合も多いことが予想される中、日本の上場企業の課題である企業統治を強化するためにも、個人投資家の間でも客観的に企業価値向上につながる議案であるかを慎重に判断した上で、議決権行使が必要になります。
日本の上場企業では1億円以上において、個別の報酬額が提示されていますが、欧州や米国同様に個別金額の開示の義務付けが求められると言えます。