企業が事業活動を継続するにあたり、キャッシュフローの確保と、万が一の時に備えた現預金が必要になります。2008年の金融危機や2020年の新型コロナウイルス感染症拡大時など、事業が縮小するなど現金流入が低下する企業が目立ちました。今回は株式投資を行う上で、苦境に強い企業を見抜くための「賃借対照表」の活用方法を解説します。
賃借対照表は資産と負債の釣り合い(バランス)を示したもの
株式投資を行うに当たり、重要となるのは投資先企業の財務の健全性です。特に長期投資となれば、投資先の企業を取り巻く事業環境が悪化した場合でも事業継続が可能な財務健全性が求められます。
事業環境が悪化した場合において、事業活動を継続するにあたり重要となるのは、十分な現金が確保できているかどうかです。
それを確認する場合において活用できる書類としては賃借対照表で、企業が保有している現金や有価証券、工場などの「資産」と、金融機関からの借入金といった「負債」に別れます。
資産から負債を差し引き、残った部分が「自己資本(株主資本)」となり、企業を保有している株主の取り分となります。
純資産の割合「自己資本比率」が高ければ財務健全性は高まる
事業環境が悪化した場合、事業活動における現金流入が減少した、もしくは、完全に止まってしまった場合においても、企業活動を行う場合においても、様々な支払いが生じます。
そのため、企業には財務を常に健全な状態に保つことが求められます。この賃借対照表から見てわかる純資産の割合であり、財務健全性を判断する指標として「自己資本比率」があります。
一般的には自己資本比率は30%以上であれば健全であると言われています。企業だけではなく、個人でも同じですが、借金が少なければ少ないほど、万が一の場合においても、耐えることが可能となります。
流動資産の割合も確認しておくことも重要
賃借対照表に記載されている、「資産」の部分は、資産の項目に現金や有価証券といった「流動資産」の他、工場や店舗、機器といった「固定資産」も含まれています。
そのため、固定資産の割合が高く、現金が少ない場合、事業環境が悪化した場合、固定資産を売却するなどして現金化することが求められ、それによって将来的な生産性が減少することも懸念されます。また、固定資産の割合が高い場合、それを維持するための固定費が多く発生することも考慮しておく必要があります。
ANAホールディングス(9202)の総資産と自己資本推移
航空大手のANAホールディングス(9202)は、2020年の新型コロナウイルス感染症拡大の影響で航空需要が多く落ち込んだ際に、日本政策投資銀行から約3000億円の資金を調達していますが、空輸業の場合、航空機といった固定資産は多いですが、航空機を使って安全に輸送サービスを提供する場合、保守費や人件費、それに関連する様々な固定費も多く発生します。そのため、手元の現預金だけでは、これから発生する固定費などの支払いを賄えないと判断し資金調達を行っています。
現金や有価証券などの流動資産の割合が多い場合は、事業環境が悪化した場合においても、事業活動を継続がしやすいと言えます。
財務健全性と株主還元の両立確保が重要に
事業環境が悪化した場合においても事業を継続する場合は、財務健全性を賃借対照表が活用できることをお伝えしましたが、ここで誤解してほしくないのは、現金を闇雲に貯めておくことが良いということではありません。
現金を貯め込むことは、内部留保とも呼ばれ、株主市場において資本効率が低下する要因となり、「自己資本利益率(ROE)」の低下に繋がります。
日本企業の内部留保額推移
日本企業は、1988年のバブル崩壊や2008年の金融危機など不況が続いたことで、過剰にお金を貯め込む企業が増えています。そのため、配当金や自社株買いをあわせて株主還元も求められます。
米ボーイング社(BA)の総資産と自己資本の推移
一方で、航空機製造大手米ボーイング(BA)は、2019年に自己資本がマイナスとなっており、債務超過状態にあるにも関わらず、借入金を利用してまで、自社株買いや配当金の支払いといった株主還元を強化しすぎたことで、2020年の新型コロナウイルス感染症拡大時に航空需要が減少した際に、米国政府の資金支援を受けることとなりました。
米国企業は株主還元が日本企業に比べると高い反面、手元資金が少ない企業も多く、今回のコロナショックを機会に、米国の株主資本主義の見直しも進む可能性も高まります。
そのため、上場企業には手元の財務健全を維持してことに加え、体力に見合った株主還元を継続し、両立していくことが求められると言えます。