株式投資において個人株主を中心に株主優待を意識する方は多いですが、実は、株主優待を導入すると収益性が低くなるのと指摘も耳にします。
今回は、株主優待制度において、優待の原資は何なのか、優待より配当がお得なのかどうかについて考えてみます。
上場企業に4割が株主優待制度を導入
株主優待制度は日本独自の株主還元制度です。日本の上場企業数は全市場で2018年9月末時点で3771社となっており、その中でも1450社と全体の4割の上場企業が株主優待制度を導入しています。
株主優待制度を導入している理由は、自社製品の宣伝や現物での還元などが個人株主を重視して制度を導入していると言えます。また、近年では政策保有株式の減少などで、安定株主を確保する目的で、個人株主に株式を保有してもらいたいと考える企業が増える中、株主優待制度を導入する企業数も増加傾向にあります。
株主優待で発生した費用は広告宣伝費または交際費?
株主優待制度は個人株主にとって嬉しい制度ではありますが、この株主優待を提供するにあたり、その原資はどこから来ているのかはあまり意識する方は多くはないはずです。
企業側としても、株主優待で発生した費用について、自社で仕訳は行っていますが、株主などに対して公開する決算書や賃借対照表などに細かく記載はされていません。
株主優待における費用については、会計基準など法令で厳密な決まりがあるわけではなく、その目的などに応じて企業側に委ねられています。
自社製品などで株主に自社の製品について理解してほしいという目的であれば「広告宣伝費」、単純にお中元と同じ感覚でお菓子の詰め合わせなどお礼として送付している場合は「交際費」として仕分けしている場合もあります。
また、株主優待として商品を発送する場合、宅配業者に発送を依頼することになりますので付随する費用として「通信費」が発生します。
一方で、鉄道や空輸など乗車券などの割引券については、印刷代や紙代、通信費などは発生しますが、株主優待を提供することで多くの費用が発生しませんので、広告宣伝費にも交際費にも該当しません。
そのため、株主優待制度において、自社製品やお菓子の詰め合わせなどを導入している場合、事業活動における経費が多くなることを意味しており、優待制度によって営業利益を減少させる要因となります。
金券の場合は現物配当に該当するのか?
株主優待制度の多くが、自社製品などを中心に提供されていましたが、近年、一般消費者向けではなく、事業者向けに製品やサービスを提供している企業においても、個人株主の獲得を目的にクオカードといった金券類の株主優待を導入する企業も増えています。
通常の株主還元方法としては、利益を分配する配当金を支払うことが一般的ですが、それに変わってクオカードなどの金券については、前章で記載した広告宣伝費もしくは交際費としての仕訳に該当するかは微妙な位置づけとなります。
企業によっても異なりますが、配当は株式保有数に応じて受け取れる金額が異なりますが、株主優待の場合、多くの株式を保有している場合でも、同一の金額相当の金品であることも多く、会社法における株主平等の原則に基づけば現物配当に該当しない可能性も指摘されています。
ただし、保有株式数に応じて、金券を提供する金額が異なるのであれば、現物配当に該当するものと考えられます。
株主優待制度導入企業の収益性は低い?
日本の個人株主の多くが楽しみしている株主優待ですが、株主優待は今回紹介したとおり、会計上の決まりがなく、仕訳も企業に委ねられており、その原資も曖昧な部分が多いのが現状です。また、株主平等の原則の原点から見ると様々な問題も指摘されており、今後、株主優待制度のあり方については議論していく必要があります。
今回言えるのは、株主優待制度を導入することで、提供する物品などに関わる費用の他、通信費など付随する費用も多く発生することから、最終的な株主の利益を考えると決してお得な制度であるとは限りません。
実際に、日経グループの金融情報サービス会社であるクイックによると、株主優待制度を導入している企業における収益性指標(ROE、ROA、ROIC)の数値が、株主優待制度を導入していない企業に比べて低いという分析を行っています。
配当金の場合は、株式保有数が多くなれば多いほど、受領できる配当金の金額も増えることから、定期的な収入を意識するのであれば、シンプルに配当金のみを支払っている企業に投資するのが鮮明であると考えています。
ただし、配当金の場合は強制的に源泉徴収されますが、株主優待は税金が差し引かれませんので、最小単元のみ保有している株主にとっては、金券などの株主優待であればお得になる場合もあります。(金券でも申告の必要が生じる場合もある)
いずれにしても、株主優待の原資が何であるかをしっかりと見極め、株主優待がお得であるか、配当金を意識するかを考えた上で投資先を見つけると良いでしょう。
SBI証券や楽天証券、マネックス証券、SBIネオトレード証券、松井証券などネット証券を使うことで、上場企業各社の株主優待情報の他、直近に支払った配当額や配当利回りといった多くの情報はインターネットでいつでも調べることができます。口座開設も無料となりますので合わせて活用して見るもの良いでしょう。