日本政府は国民の長期的な資産形成を支援すべく、少額投資非課税制度(NISA)といった制度づくりなど投資環境の改善に向けた取り組みを進めています。ただ、日本の株式市場は長期投資に不向きとも言われ株式で資産形成も難しいのも事実です。今回はその要因と問題点について考えてみます。
日本企業は景気の影響を大きく受け株価の乱高下が激しい
日経平均株価(青)と米S&P500(赤)の株価推移比較
日本株が長期投資に向いていないとされる一番大きい要因としては、日本株は株価の乱高下が激しく、長期的に上昇を続けている米国株に見劣りするということが考えられます。
日本はバブル崩壊後、株価の乱高下が激しく、全体的に見て右肩下がりとなって推移していました。いわゆる「失われた20年」とも言われますが、バブル崩壊後、ドットコムバブル(ITバブル)やリーマンショックなど大きく上下を繰り返すなど安定的な推移は程遠いといえます。
ただ、2012年に安倍内閣が発足し、政府も長期投資を促し、経済回復を急ぐべく、少額投資非課税制度(NISA)といった制度づくり、コーポレートガバナンス体制の強化、株式の持ち合い解消など投資環境の改善に向けた取り組みを進めています。
近年では安倍政権による投資環境改善の期待もあり、外国人投資家が多く参入し、日本株を運用するようになっています。しかしながら、国内では日本人による投資家が少ないもの事実で、外国人投資家が約7割を占める市場となっており、外国人投資家の動向に大きく左右されやすい特徴もあります。
バブルが崩壊する高度経済成長には日本が古来から得意としていたものづくりの分野を生かして、大量生産して海外に売るという事業モデルも、国外で起きたリーマンショックなど経済要因に大きく左右されるなど、外的要因に大きく左右されやすい特徴があり、景気が悪化する局面があれば、日本株の投資割合が多い外国人投資家の多くが売り注文を出し、結果として乱高下が激しくなることにつながっています。
日本企業は利益水準や成長率が低い
日本企業は利益水準や成長率が低いという問題点もあります。株主から預かった資金でどれだけ稼いでいるかを示す指標である「自己資本利益率(ROE)」は、2019年1月時点において米国が16.5%、英国が14.6%、ドイツが12.2%に対して、日本は9.3%となっており、先進諸国と比べると、見劣りしていることが伺えます。
利益率が低い要因は様々ですが、前述したとおり日本企業の多くはものづくりに依存しており外的要因にさらされやすいことに加え、後述している通り、コーポレート・ガバナンス体制が不十分であること、企業がリスクを恐れて、内部留保を増やす傾向にあるなど、企業活動が保守的となっていることもあります。
また、日本企業は紙ベースでのやり取りが多い、長い打ち合わせ、残業を前提とした働き方など、事業の進め方に改善がなく非効率なやり方が多いこと、一般的な大卒を大量に採用して定年まで働いてもらうといった終身雇用や年功序列など人材育成においても多様な人材を活用するという動きに乏しいことなど、経済がグローバル化している中でこれらの慣習も成長を阻害している要因としても考えられます。
コーポレート・ガバナンス体制が不十分な部分も企業監視が曖昧になり、成長の足かせとなっているのも要因としてあります。その一つとして株式の持ち合いが多いことです。株式の持ち合いが多いと企業活動の監視が行き届かなくなる、少数株主の意見が反映されづらくなるなど企業成長にとってもマイナスの影響を与えます。
株主還元に消極的である
資本市場においては、投資家より資金を集め、その資金を使って事業を行い、そこで得た収益を今後の成長や投資家に還元するという形で経済成長を大きくするサイクルとなります。
ただ、日本企業は表面上資本市場を取り入れていますが、企業を長期に存続させることにコミットしており、先程述べた新卒一括採用で大量に人を雇い、給料と引き換えに、定年までその人の人生までをトータルで面倒をみる終身雇用制度など、事業を通じて商品やサービスを提供することを目的とした集団というより、人々が存続するために寄り添い、それを実現する手段として商品やサービスの提供を行っているなど、手段と目的が逆になっているように感じます。
そのため、企業が倒産などの事態などを恐れて事業で稼いだお金を内部に貯め込む(内部留保)する企業が多く、株主への還元が後回しになってしまうことにつながっています。
日本企業の内部留保額の推移(筆者作成)
日本企業の内部留保は少し古いデータですが、2015年は241兆円となっています。そのため、安定的な配当などが期待できないため、中短期の株価の売買のみしか資金回収ができず、企業の成長に期待できず、経済全体の鈍化につながることなど市場全体にとってもマイナスの影響を与えてしまいます。