東京証券取引所は2018年6月1日に、上場企業が適用する企業統治指針を改定しました。今回の改定では上場企業が株式を持ち合う政策保有株の削減と、取締役の外国人や女性の登用などを進める指針を新たに策定されています。
株式持ち合い(政策保有株)とは?
株式持ち合い(政策保有株)とは、企業同士が互いの株式を持ち合うことで、企業経営の安定性を目的に行われる日本独自の習慣です。
株式を互いに持ち合いは、企業や銀行が互いに経営権を取得することで企業経営を安定させることに加え、企業間取引の強化、敵対買収の防止などが目的とされています。
株式の持ち合いは、財閥の解体と同時に戦後から行われ始めたとされており、主に外国企業から企業が乗っ取られるのを防ぐことを目的とされていましたが、高度経済成長期に突入し、資金需要が高まったことから企業と銀行間の株式の持ち合いが強まりました。
ただ、バブル崩壊後日本は長い不況に突入することとなり、株式持ち合いは資本効率を悪くする要因として問題視される他、経済のグローバル化の進展に乗り遅れた要因としても指摘されています。
2012年に安倍内閣が発足して以降、アベノミクスによる景気回復に伴い株式の持ち合いを解消する動きが出始め、資本効率を高め、市場に出回る資金量を増やすことで経済の活性化に向けた取り組みが進められています。
政策保有株式については、以下の記事で詳しく解説していますので合わせてご覧ください。
株式持ち合うことは経営安定化の目的があった
企業や銀行が互いに株式を持ち合うことは、議決権の多くを企業間が持ち合うことになりますので、株主総会における取締役や役員の選定において経営者側にとっては、自身の地位を確保しやすくなります。また、他社からの敵対買収が防げるなど、企業の身を守れるようになります。
企業や銀行間との取引の強化にもなり、株式を保有していることで取引においては優先的に取引を行うことができますので、安定的に仕入れができること、収益が得られること、資金の供給ができることにもつながります。
したがって、株式の持ち合いは安定的な経営を行う目的で行われていた側面がありました。
株式持ち合いは本来の上場企業として価値が弱まる
株式を互いに持ち合うことで、企業経営を安定させる利点はありますが、大半の株式を持ち合っていることで少数の株主に対する利益還元が乏しくなる他、資本効率の示す指標である「自己資本利益率(ROE)」が低下することになります。
また、議決権の大半を持ち合っている企業が握ることとなれば、株主総会において他の株主の意見が通りにくくなることで経営の監視機能が弱まり、企業価値を高めるための企業統治(コーポレート・ガバナンス)の改善が乏しくなります。
企業は本来であれば、得た資金を使ってさらなる成長に向けた事業投資などに振り向けるのが本来のあるべき姿であり、それを効率的に行うために、資金の借り入れや株式市場を通じて資金調達を行うものです。その資金を使って更に事業を成長させ、そこで得た利益を株主に還元することで企業価値を高めることが本来の努めとなることから、日本の独自習慣である株式の持ち合いは解決すべき課題であります。
近年では株式の持ち合いは減りつつある
資本効率を悪化させる株式の持ち合いですが、近年ではこの動きも減りつつあります。2018年6月2日の日本経済新聞の記事によると「主な上場企業の持ち合い株が時価総額に占める比率は1990年代には3割を超えていた。今年3月末時点では1割前後とみられる。」としています。
日本はバブル崩壊後、長い不況のトンネルに突入することとなりますが、株式の持ち合いについて問題視された発端となった出来事としては、政府が世界基準に会計ルールを変更し、保有している有価証券の損益を決算に計上するこを義務付けます。
それにより、不景気による株式が低迷している状況で、株式持ち合いとして保有している株式の評価損を計上しなければならず、業績が悪化した企業の株式を保有するメリットがなくなったことで、株式の持ち合いを解消するきっかけとなりました。
外国人投資家などアクティビストの進出で経営に圧力がかかる
また、経済のグローバル化による外国人投資家が日本へ進出したことや、国内でも村上世彰氏が率いていた「村上ファンド」などの物言う株主(アクティビスト)が台頭したことで、コーポレート・ガバナンスの向上が強く要求されることから、日本企業でも株主を主体とした経営に転換する企業が増えています。
例えば、陸運の日本通運(証券コード:9062)は、2022年3月期をメドに自己資本利益率(ROE)を10%まで高める計画を発表しており、これまでの持ち合い株については事業面での効果を踏まえた上で削減し、今後は資金を成長投資や株主への還元に回すことを明らかにしています。
日本企業の自己資本利益率(ROE)は、少しづつ高まりつつありますが、欧米と比べて低い状況が続いています。2018年2月時点においては9%前後となっており、米国の13%や欧州の10%と比較しても、低水準の状況となっています。
今回、東証が本格的に株式の持ち合いにメスを入れることで、日本企業の資本効率と企業価値の向上を図り、日本経済の成長を後押しすることに期待できると言えます。